燃え燃えキュン

小説読み書きレビューしたりゲームの考察についてのブログ

瑠璃色にボケた日常の感想他諸々

 評判が良かったので読んでみた。最近そんなんばっかだな自分。

 第八回MF大賞の佳作だったのね。読んで初めて気づいた。

 あらすじとしてはこんな感じ。

 主人公は中学時代にエースピッチャーとして全国優勝したことがあるほど優秀な選手だったが、ある日事故によって野球人生を絶たれてしまう。

 やさぐれた主人公はあっという間に不良に早変わり。しかし高校に入学して何日か経った頃、中学時代の仲間が死んだという話を耳にする。しかもその友人が主人公の枕元に立つのだ。

 どうにかして除霊できないかと考えた主人公は、学校の有名人であるヒロインを訪ねることにする。彼女は学校外でも有名な除霊師らしい。

 そこで彼女に気に入られてしまった主人公は、トラブルメーカーの変人ヒロインにお笑いの相棒として気に入られ、なし崩し的に相方にさせられてしまう。

 彼女が言うには、幽霊というものには意思はなく、人が幽霊の意思を決定づけているのだという。

 つまり、元仲間が枕に立つのは主人公のせいらしい。

 その仲間は中学時代に主人公とはライバル同士であり、事故によって野球ができなくなった主人公を恨んでいる、と主人公は考えていた。

 その意識を変え、除霊に成功する。

 が、ツッコミ役を求めていたヒロインに主人公は気に入られてしまい、借りを返すという名目でしぶしぶ漫才コンビを組むことになるのであった。

 ……というのが前半の展開。

 個人的にはそこまで面白くなかったんだけど、非常に上手い作品だと感じた。正直すごいと思ったね。読む価値はあった。

 そしてこのオレをギャグで笑わせる小説というのは本当に久しぶりだった。他のギャグは別に面白くは無かったんだけど、「主人公、パンツを脱げ」「脱がねぇよ!」「ツッコミが早い。そこはズボンとパンツを下してから『脱がねぇよ!』というのがベストだろう」「遅せぇよ! 脱いでんじゃねぇか!」っていうのだけはツボってやばかった。

 なんだろうね。普通に読んでるだけでもそこそこ面白いんだけど、パンツを脱いでから「脱がねぇよ!」と言ってる場面をイメージしたら笑うしかなかった。久しぶりにギャグで笑ったわ。

 まぁそんなことはどうでもよくて、二章のミステリー風味な展開がよかった。

 どんでん返し、というほど大げさなものじゃないんだけど、犯人というか一番悪いのは誰だ、というその人物が二転三転とするのはページをめくらせる原動力になっていたと思う。

 悪役の行動原理についてもしっかりと描写されていて、ああだからこうなったのか、という納得のいくものになっていた。

 あとは設定も秀逸。

 ヒロインは悪霊をあえてたくさん取りつかせることで護衛としているということも、何故そのようなことをする必要があったのかの理由についても違和感を抱くことなく説明されきっていた。

 シリアスとコメディのバランスがなかなか良かっただけに、終盤の突然の異能バトルには食い合わせの悪さのようなものを感じた。

 ミステリー+コメディ+バトルという感じというか。流石に三つの要素をぶちこむのは食い合わせの悪さというか、読んでて胃もたれしてしまう。

 終盤でバトルをするのなら、終盤までの流れの中で、もっとバトルを色濃くする必要があったんじゃないかなぁ。

 全体として見ればまとまってはいるんだけど、部分的に捉えると、主人公の友人の除霊の話、主人公の見つけた誰かの幽霊の話、ヒロインとその親友の仲違いの話という、長編というよりは短編を三つにまとめたような構造になっている。

 もちろんそれが悪いわけではないんだけど、話が分かれているが故になんつーかこう爆発力のようなものに欠けてしまっていたかなぁとは思う。

 やっぱり一つの問題を丁寧に時間をかけて物語にしていく方が読後の余韻は深いと感じた。90点をどかんと取るか、30点を三つ取るかの違いっていうの? そんな感じ。

 しかしお笑いとお祓い(と一応バトル)を掛け合わせた技術は見事だと思うし、小説としての物語性、キャラの動機や目的、設定の活かし方などどれを取っても高水準にまとまっている。

 普通の作品は問題と解答欄が5つくらいなんだけど、自分で10個くらいに設問を増やしてしっかり点数を稼いでいるような印象を受けた作品。

 冒頭を読んだ時点では、将来有望な学生が事故って不良になって、なんだそのありきたりな展開は? って呆れたんだけど、読み進めていくうちにあまり気にならなくなっていった。この小説は、全く面白そうな予感を感じさせないセンスの欠片も無い冒頭と、それからの主人公の人物説明でズッコケているのが最大の欠点。ここまで失敗している冒頭もなかなかないと思う。

 派手さはないけど堅実さがあった。良い意味でライトノベルだったと思う。

 7点。