世界観(設定)について
新人賞で受賞を狙うライトノベルにおいて最も重要なのは『世界観(設定)』であると考えている。
ライトノベルというと、詳しくない人はハーレムしてりゃいいんだろ? といったことを思うかもしれない。が、それは新人賞においてはかなり的を外れた意見であると思う。
勿論、同時代性やライトノベルらしさ(読者がライトノベルに求める要素)としてハーレムといったものは一つの要素ではあるだろうが、あくまで一つの要素であってメインではない。
審査員のコメントなどを見ていると、オリジナリティを求める云々などと書かれていることが多い。
そのオリジナリティというものが一番分かりやすいのが『世界観(設定)』なのだ。
魔法が使えたり、獣が喋ったり、ドラゴンがいたり。
それらは普通ではある得ないのだが「そういう世界観(設定)」だから、と言えば解決してしまえるのだ。
対してストーリーやキャラにオリジナリティを出すことは難しい。
ライトノベル。つまり十代の読者に受け入れてもらえるストーリーというものは、大体が、
主人公がヒロインと出会う→仲が良くなる→事件が起こる→解決する
という流れだからだ。
斬新であるストーリーを思いつくこと自体は簡単だ。
例えば中年のおばさんが主人公だとしよう。
彼女は普通の主婦として生活しているが、ある日交通事故で死んでしまう。物語は終わる。
主人公が呪いでゴキブリに変身してしまい、ゴキブリとしての生活を送っていく。嫌だけど、そうやって生きていくしかないと悟りながら物語が終わる。
これらは色々な意味で斬新といえるストーリーと言えるだろう。だが、これでは斬新なだけで、全く面白くも何もない。
物凄く詳細に主婦の生活を描写し、その上で交通事故による死という悲劇を描写できたら。ゴキブリの波乱万丈さを面白おかしく描けたら、ひょっとしたら面白いという人が現れるかもしれないが、面白いといってくれる人は少数派であろう。面白さとは、読者がキャラに感情移入(共感)できるかといったものが大きいからだ。それがライトノベルの読者であればなおさらである。ぶっちゃければ、中年のおばさんやゴキブリがどんな面白いことをしようと読者にとってはどうでもいいのである。
つまり、ライトノベルでストーリーに真の意味でオリジナリティを出すということは極めて難しい。
同じく、キャラクターにオリジナリティを出すというのもなかなかに難しいといえる。
ライトノベルの主人公では、高校生の少年が殆どだ。理由としては、それが一番読者の共感を得られるからである。七十歳くらいのホームレスが主人公でも、読者は共感出来ない。
しかし高校生というのが厄介なのだ。せいぜい学校行って勉強して部活して、あとはせいぜいアルバイトくらいしかできない人間を魅力的にするのは難しい。
オリジナリティを出そうとしても、それはただの奇人変人で終わる可能性が高い。
しかし、世界観(設定)は「そういう世界観だから」のごり押しが可能なのだ。どう考えても一番オリジナリティ(正確に言えば、誰得にならないオリジナリティ)を表現しやすいのである。
さっきからどうして『世界観(設定)』としているかについて説明する。
ファンタジーな世界であれば、オリジナリティを世界観に出すことができる。例えば太陽の光の届かない闇に包まれた国、など。
が、現代日本を舞台にするとオリジナリティのある世界観を出すことは難しい。そこで世界観に代わるものが『設定』なのだ。
現代日本でありつつも魔法が使えるとする。
しかしただ普通に魔法が使えるだけの物語など、今ではいくらでもある。
そこでオリジナリティのある設定を組み込むのだ。
魔法というとドラクエのようにMPを消費して魔法を使う、というのが一般的かと思われる。
しかし、魔法を使うには誰かを笑わせないといけないという設定を加えたらどうだろうか。笑わせるごとに一回魔法を使えるようになる、など。これならばそこそこ斬新と言えるかもしれない。
世界観とは違うオリジナリティ。それが設定なのである。
少し脱線したが、とにかく他作品と違うということを強調するには『世界観(設定)』にオリジナリティを出すことが一番なのだ。
そうして世界観(設定)が決まれば他の要素、つまりキャラクターもストーリーもおのずと決まってくる。
オリジナリティのある世界観があれば、その世界で生きる人たちは我々の生活とは違っているはず。つまり独自の価値観や生活様式が存在している。そこで暮らす人のことを考えれば、その世界独自の主人公が生まれてきて、その世界観に合ったストーリーも生まれてくる。
勿論キャラやストーリー先行で物語を考えていく人もいるだろう(実際私は、パッと思いついたタイトルから物語を連想して作っていくことがある)が、とりあえず今回は世界観から作っていく方法を述べていきたい。
ではそんなオリジナリティのある世界観、設定を作ればどうすればいいのだろうか。
今の時代、完全なるオリジナリティを生み出すことはほぼ不可能だと考えている。
ならどうやってオリジナリティを出すかと言えば、既存のものを組み合わせるのである。
バカとテストと召喚獣であれば、テストの点数が戦闘力になるというオリジナリティがある。有りそうで無かった話だ。
他にも図書館戦争では、図書館と戦争を結びつけた新しさがある。
これは能力というものにも応用できる。
能力といえば手から火を出したり風を操ったりといったものが一般的だろうが、それに何かを組み合わせたり、限定的にするのである。
例えばスカートを捲るためにしか風の能力を使えなかったらどうだろうか。
極めてくだらないが、使い方によっては馬鹿馬鹿しいコメディが作れそうだ。
火を扱う能力でも、使うためにはロウソクを食べないと使えなかったらどうだろう。
これらの能力にも、ただ掛け合わせればいいというものでもない。例えば火を使うには水を飲まないといけないという設定にすると、それでは読者はなんとなく納得しにくいだろう。それよりも火というものに関連性のあるロウソクを食べなければならない方が、多少説得力がある。
このようにこじつけでもいいから関連性を見つけて掛け合わせることで、読者を納得させやすくなる。
他にも、例えば人間が空を飛べるという世界観で物語を作るとしよう。
この時、何故飛べるのかという問いに「そういう設定だから」とごり押すことも可能ではある。が、この国には風の精霊がいて、その加護おかげで人間は飛べるのだ、とでもしておけば説得力、つまりリアリティが生まれて読者は世界観に入りやすくなることだろう。
つまり、何か設定があるのなら、それに対する理由があれば良いということだ。これは世界観や設定に限らず、キャラやストーリーにも同じことが言える。
この世界観や設定というものは、個人によるものが大きい。
わざわざ考えるよりも、自分が好きなものを究極まで追求する、というのがオリジナリティを生む一つの方法だと思う。
俺、ツインテールになりますという作品では、主人公はツインテールを愛するあまり、ツインテールを守るために幼女化して敵と戦うのであるが、ツインテールのために頑張るというのはオリジナリティがあると言える。
他にも下ネタという概念が存在しない退屈な世界では、下ネタが禁止されているという斬新な世界観を作り上げている。
また、世界観や設定を作ったのならば、それを活かしてやらなければならない。
そんなの当たり前じゃないかと思うだろうが、それは意外と難しい。
何故なら、その世界観や設定というものは、我々の世界には無いものだからだ。
想像で新しいものを作り上げ、リアリティを持たせるのは簡単ではない。
分かりやすく例を挙げるとしよう。
主人公が物語の都合上、不良だとする。
当然、不良であれば悪いことをする必要がある。
なのに言葉づかいが丁寧だったり、服装もきちんとしていたり、喧嘩もしない。主人公の不良という設定が生かされていないということになる。
すると読者は違和感を覚える。
不良の設定なんて別いらないじゃん、と。
そう言われてしまわないように、設定を考えたら、それをちゃんと活かしてやらなければならない。
人間が空を飛べるのであれば、自動車などは必要ない世界であるはずだ。なのに日常的に車を使っていたら違和感がある。
それがリアリティである。
リアリティとは『普通であること』と言い換えてもいいかもしれない。
不良であるならば、悪いことをするのは普通。
空を飛べる世界であるのなら、車を使わないのが普通。
その世界の普通を描写することが、世界観、設定には必要である。
リアリティを求めることで、ぐっと物語は面白く、深くなるのだ。
・世界観や設定を作るには
オリジナリティとは、大雑把に言えば「普通とは違う」ことである。
オリジナリティというと、独創的でなければならないだとか、全く誰にも思いつかないようなもの、誰も見たことが無いものを生み出さなければならないだとか気負うかもしれない。しかし、思いつめるとかえって思いつかなくなってしまう。
オリジナリティを生み出すには3つあると私は考えている。
1.何かと何かを掛け合わせる
2.何かから何かを引く
3.普通とは役割が違う
この3つだ。
それぞれ例を用いて説明していく。
1の何かと何かを掛け合わせるというのは上記でも説明した通り、バカテスのような『点数』+『戦闘力』であったり、図書館戦争の『図書館』+『戦い』といった感じだ。
他にも、能力に何か制限があるのもこれに該当する。
『水魔法』に『魔法を使うには使う量の10倍の水を飲まなければならない』という「条件」を足す。既存の魔法とはちょっと違って、オリジナリティが多少あるように見える。
『他人のパンツを覗く魔法』に『でも覗けるのは10年に一度だけ』という「制約」を課す。
その条件や制約が困難であるほど面白さや緊張感が増す。
何かに何かを足すと考えると難しいが、条件を付けくわえると認識すればいくらでも思いつく。
2の何かから何かを引くというのは、1とは逆のパターンだと言える。
ソードアートオンラインの例を挙げるとしよう。
ソードアートオンラインは一見普通のゲームの世界であるが、所謂魔法といったものがなく、剣のみの世界である。
普通ゲームといえば剣を始めとした武器があり、更に魔法が使えるものだと思うが、これは剣しか使えないという「ゲームから魔法を引いた」設定になっている。
他に考えられるものとしては、本に文字が無いとかどうだろう。本に文字が無い代わりに、本を読もうとすると本の中に入り、物語を直接体験できるような本である設定であるとか。これは戦う司書シリーズの設定に似ているが。
既にある何かから何かを引くというと難しいかもしれないが、最初の「何か」を「世界」にすればいくらでも思いつく。世界から何かを引くとすればいい。
つまり、もしこの世に〇〇が無かったら? を想像すればいいのだ。
車が無い。空が無い。海が無い。陸が無い。男がいない。女がいない。寿命が無い。体がない。人間以外の生物がいない。文字が無い。
このように「何か」というものについてもっと大きく捉えればいいのである。
3のちょっと変わっているというのは、役目が本来のものとは入れ替わっていることを指す。
例えば魔法少女というものが世の中にはあるが、それに変身するのが少女ではなくて、四十歳を超えたオッサンが魔法少女に変身したらどうだろうか。ちょっと変わっていると思う。
それの反対として、身長130センチくらいしかない少女がサングラスにコートに革靴というキメた格好でぶっとい葉巻を咥えてマフィアのボスをして部下(禿頭の男たち)を顎で使っていたらどうか。いざ抗争が始まれば、マシンガンを片手でぶっぱなしながら「ヒャッハー」とか叫ぶ少女。ちょっと変だと思う。
このように本来の役割とは違ったことをさせるというのも、オリジナリティを生み出す一つの要因である。
オリジナリティを出すのは、基本的にこの3つしかないと考えている。
本当のことを言えば、完全なる自分だけのオリジナリティを出す方法はあるが、全くお勧めはできない。
例えば自分の考えた空想上の生物。オリジナリティの塊だといえる。
しかし、天使でも悪魔でも竜でもない〇〇という生物なんです! 宇宙に生息していて腕が百本あってダークマターを主食としていて光を超える速さで移動して一日に何回かブラックホールを作って~云々と説明したところで「あ、ああ、そう」としか言われないでしょう。なぜなら読者には理解できないから。せめて神話や昔話などで関連性があるのならまだしも、完全なるオリジナルを目指しても自分にしか分からないのである。もしそれを読者に理解させたいのなら、自分が神話級の物語を一から創造して伝えなければならない。
つまりオリジナリティがどうのこうのと審査員は言うが、他人に理解できるオリジナリティでなければ駄目だということだ。
もっといえば、それの原型、モチーフが存在している必要がある。
世界観(設定)については、このくらいだ。まとめると、
・オリジナリティとは、普通とはちょっと違うということ。深く考える必要はない
・オリジナリティを生み出すには「何かに何かを足す(強制されている)」「何かから何かを引く(禁止されている)」「既存の役割を変える」の3つ。
・世界観(設定)を生み出したら、ちゃんとそれを利用しなければならない
・世界観(設定)に理由があると、グッとリアリティが増す
・誰得にならない
これらの条件を満たしていればオリジナリティのある物語を作り出すことができるだろう。
とにかく、オリジナリティというものに対して深く考えてはならない。ふと思いついた「ちょっと変じゃね?」というものを大事にしていけば、それがオリジナリティに繋がっていくのだから。
上記の項目はあくまで例であって、それに捉われることなく「ちょっと変」を個人的に追及していけばきっとオリジナリティは生まれるはずだ。
自分なりのオリジナリティを大切にして、探していってほしい。
誰も見たことが無い、わくわくできるような設定を考えつけば、ライトノベル新人賞では勝ったようなものだと思う。
何故なら審査員は、そういうオリジナリティのあるものを求めているから。