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燃え燃えキュン

小説読み書きレビューしたりゲームの考察についてのブログ

ゼロから始める魔法の書 一巻を読み終えての感想

 まぁなかなか面白かったんじゃない? というのが正直な感想。

 読んだ後でアマゾンレビューとか見てみたけど、そこまで酷評を受ける作品ではないと思った。

 王道かどうかは分からんが、丁寧な設定がなされているように感じたし、全体的に見れば綺麗にまとまっている。

 ただ、設定自体は良いものの、それ以外、つまりキャラやストーリーについては浅いなぁと感じられた。なんつーのかな、設定を活かしきれてない感じ。

 主人公の傭兵は獣落ちと呼ばれる、所謂獣人であるのだが、「作者がそういうのが好きだから」というだけで獣人設定がなされているようにしか見えなかった点とか。

 勿論「作者が好きだから」○○をする、っていうのは全然構わないんだけど、それをちゃんと料理というか物語に落とし込まないと駄目だと思うんだよ。

 一巻を読んだだけでは獣人の必要性が極めて薄く、結果として薄っぺらさを感じた。

 その獣人である主人公にも違和感を覚える。

 普通、獣人なんていう存在だったら物凄く強い(物理的に)存在だと思うじゃん。

 実際に作中の描写でも人間より遥かに強いって説明がされているし。

 じゃあめっちゃ強い傭兵の爽快なバトルシーンとかがあるんやな! って期待しちゃうじゃん。でもこの作品のバトルって(そもそもあれをバトルシーンと呼んでいいのかは謎だが)魔法使いばっかが前面に出てるんだよね……。獣落ちである主人公の見せ場が全くない。

 主人公が活躍するのはもっぱら鼻が良いとか気配に敏感だとか本能がどうした直感がどうしたとか、戦闘面とは全く関係ない場面でしか出番がないっていう肩すかし感。そういうのは戦闘能力がない脇役でいいだろー。

 その主人公像にも違和感がある。

 獣落ちが忌み嫌われる存在なのは分かる。でもそれにしたって小心者過ぎやしないか主人公。

 確かに今時は卑屈系の主人公もいる。だったら卑屈系らしく(?)、策を弄して敵を手玉に取るくらいのことはしてほしいんだけど、あまりにも中途半端な性格をしている。

 自分は傭兵で悪の存在だというのならそれを貫いてほしいし、人情があるなら「良い奴キャラ」であって欲しいと思うのだが、どうもそれらが半々で入ってきて実に中途半端な感じ。

 作者としては、傭兵という汚い存在がヒロインのためにわずかな人の心を取り戻しす、的な主人公が精神的に成長する展開にしたかったのかもしれないけど、この話、主人公がメインじゃないから、意志薄弱というか信念が無いキャラの心情が変わっても別にどうでもいいっていうか、そもそもこの主人公って他作品だったら間違いなく脇役だよねっていうキャラで、なんかもうどうでもいいや。

 この物語って獣人である主人公の一人称の話なんだけど、主人公に獣人感が全くないっていうか、獣人だよっていう描写が無かったら小心者の男って感じしかしないんだよなぁ。

 ほら、小説だと基本的にイラスト無い状態で読む訳じゃないですか。だから想像で補ってストーリーをイメージする訳ですけど、主人公の一人称を読んでいても、ただの小心者の男の話にしか見えないんだよね。

 例えると、北斗の拳ケンシロウみたいなめっちゃ強そうで強面硬派なムキムキマッチョマンの外見で中身はラブコメハーレムラノベの主人公、みたいな。違和感半端無い。

 それでギャップによる魅力を出したかったのかもしれないけれど、残念ながら上手く機能してたとは思えない……。

 所謂ギャップ燃えっていうのは「メインの(そうあるべき)性格」と差異があるからギャップ燃えするのであって、例えばケンシロウみたいなキャラだったら、外見がムキムキマッチョマンで硬派で悪を許せない性格、だけど肉よりも甘いものが好き、みたいなギャップがあるから「なんやこいつ、マッチョで硬派の癖してかわいいやん」となって燃えるのである。

 つまりこの作品の主人公であれば、獣人で戦いにめっちゃ強くて頼りになる、けど中身は意外と小心者、であればギャップが生まれただろうけど、獣人なのに雑魚キャラだから(少なくとも作中で強そうな描写は一切無かった)残ったものが「弱くて小心者」という結果だけなんだよね。「弱い」+「小心者」にギャップなんてある訳ないじゃん。しかもマイナス要素の属性だし。主人公だったらありきたりであっても「強くて」「豪胆」というプラスな属性を期待したいところ。まぁ最近は卑屈系の主人公も存在するみたいだからプラス(陽)の性格の主人公がいい、というのは個人の感想でしかないのかもしれないけど。

 とまぁそんな感じで主人公がなかなかに微妙だった訳だけど、ヒロインである魔女のゼロについては良かったように思う。ずっと穴蔵と呼ばれる人と交わらない世界で暮らしていたせいで常識が無かったり、女のくせに自分のことを我輩と呼ぶ個性であったり、魔女として一流であったり、主人公と比べれば遥かに良いキャラだった。

 しかし個人的に気になってしまったのは、作中で絶世の美女と評されるのだけど、イラストはどちらかというと可愛い系で、あまり美人っぽさが無かったのは残念だった。イラストレーターのチョイスミスじゃないかと思わなくもないが、ゼロ以外のキャラは大体イメージに合っていたので、まぁ小説自体には関係ないしどうでもいいか。

 この作品は王道ファンタジーということだが、それにしては手に汗握るバトルは無いし、悪役である十三番の行動原理は良く分からないし(動機は分かったけどその動機を持つに至るまでの経緯が分からない)、一言で言ってしまえばカタルシスが無い。

 普通、王道であったら悪の親玉をぶっ飛ばしてハッピーエンド、だと思うのだが、悪役であるはずの十三番は割とあっさり主人公サイドに寝返ってしまうし、寝返るのだとしても罪を犯したのは事実であるのに何か流れの中でなんとなーく許されてる感じになってるし、なんか敵側に都合よくない? という逆ご都合主義のようなお話になってしまっている。

 いや、ハッピーエンドっていうのは敵を倒して主人公たちがハッピーになることであって、敵も味方もハッピーっていうのはハッピーエンドって言わなくない? みたいな。

 あと、主人公がヒロインとすれ違って一旦分かれる展開になるのだけど、そこから再び主人公がヒロインを助けに行く理由が良く分からない。行動理由としては弱い気がする。ヒロインのためにどうのこうのっていうより、このままだと国がヤバいからヒロインの助けが必要だ→だから助けに行く、という感じで、ヒロインのこと自体が心配だから助けに行く訳じゃないのがどうも説得力に欠ける。

 というかそもそもヒロインが主人公を護衛として選んだ時点で割とご都合感がある。主人公じゃないといけなかった理由ってないよね? ヒロインが割と主人公に執着している描写があるんだけど、その執着する理由が全く分からなかった。別に主人公、善人じゃないし、特別な力がある訳でもないし、まぁ主人公が獣落ちにはったのは呪術返りという珍しい原因らしいけど、別にそれがヒロインの興味を引いた理由ではないみたいだし、いやほんと何でヒロインが主人公に執着してるのか理由が分からん。初めて外の世界で出合った人間だからっていうだけ? だったら主人公じゃなくても良くない? うーむここらへんの理由がご都合主義に見えてしまう原因っぽい。

 ここまで欠点ばかりを上げていたけど、勿論良かったところもある。

 主人公たちがヒロイン抜きで現状を解決する策を考え出した点は良かった。独自の設定を活かして解決策を作り上げてたと思う。まぁ既存の作品とは全く違う完全オリジナルな手法で目からうろこが落ちるってほどではなかったけど、許容範囲内。あとはヒロインを見つけるためのアイテムが伏線になっているところも好みだった。なるほどこれが伏線の使い方かーと素直に思った。教科書的な伏線の使用例。

 でもまぁ結局のところ、何をしたかったのか良く分からない物語だったかなぁ。

 ゼロの魔導書を取り返す、っていう大目標はあったものの、蓋を開けてみれば全部十三番という悪役の一人相撲というか茶番だった上にむごたらしく処罰される訳でも無くカタルシスも無い茶番臭が酷かったストーリーだったし。

 主人公には目的も無いし魅力も無いし。巻き込まれ型主人公だから、と言われればそれまでかもしれないけど。むしろヒロインの方がずっと主人公っぽい。

 で、ヒロインはゼロの書という良かれと思って作り上げたものは実際には災厄しか呼ばなかったことに対して落胆するんだけど、このヒロインってなんつーか仙人的な感じで既に成長しきっているというか自己完結しすぎなんだよね。既に完成されている最強キャラ的な立ち位置というか。

 本来であれば良かれと思ってしたことが裏目に出たことに対して、主人公がヒロインを叱りながらも諭してやる役を演じる必要がある訳だけども、ヒロインが自己完結してしまってるせいで自分自身で解決に向けて動き出してしまっているんだよね。ますます主人公の出番が無い。

 なんつーのかなー。主人公とヒロインは対等であるべきだと思うんだけど、そのバランスが取れてない感じ。対等って言うのは、立場や地位や強さや知恵や財力やその他諸々を足して割ると、主人公とヒロインの総合値が均等になっているっていう意味ね。それがヒロインにかなり偏ってる印象。

 この小説の残念なところは、主人公の必要性の無さと、爽快感が殆ど(全く)ないところだと思う。

 この作品について劣等生の作者の佐島氏は「善性の物語」と語っているが、自分からすりゃこんなもんは善じゃなくて仲良しごっこの甘ちゃんの物語だろって感じ。

 不善の世界で善を通すだけの覚悟も信念も感じられないし、なんだかなー。

 けど物語としての体裁は整っていたし、丁寧に作ったんだろうなってのは伝わったし、そこそこ楽しめたのは事実。

 どんな層に薦められるのかは分からないけど、とりあえずファンタジーが好きなら読んでもいいんじゃないでしょうか。

 4点。